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【CxOキャリア】清明祐子氏のキャリアストーリー

CxO MAGAZINE編集部
2025/03/07 12:00:00

CxOキャリアストーリー012

権限を使い切る力に忘れる力をかけ合わせて気づけば駆け上がってきたCEO職の醍醐味とは?

CxO キャリアサマリー

清明 祐子 氏
マネックスグループ株式会社 取締役兼代表執行役社長CEO

  • 2001年三和銀行
  • 2011年マネックス・ハンブレクト株式会社 代表取締役社長
  • 2019年マネックス証券 代表取締役社長
  • 2020年マネックスグループ 代表執行役COO
    2021年 代表執行役COO兼CFO
    2022年 取締役兼代表執行役 Co-CEO兼CFO
    2023年 取締役兼代表執行役社長CEO

CxOのキャリアを選んだきっかけや背景は?

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清明氏:もともと経営者になりたいという夢は持っていませんでした。特定の職業を目指すというより、選択肢を広く持ちたいと考え、銀行に入りました。私はゴール達成型の考え方なので、その時々の課題に向き合いながら進んできました。マラソンや短距離走のように、常にゴールを設定し、達成したら次へ進むというスタイルです。経営者や社長を目指していたわけではなく、目の前のことに集中し、成長し続けることを大切にしてきました。

--最初のCxOはいつ、どんな会社ですかゆうこ

清明氏:初めて社長になったのは2011年6月です。M&Aを手掛ける子会社、マネックス・ハンブレクト(2017年にマネックス証券と合併)の社長に就任しました。そのときも「社長になりたい」と思っていたわけではありません。当時の経営陣が人材育成の一環として「この若手に機会を与えよう」と考えた結果、私にチャンスが巡ってきたのだと思います。それまで意識していませんでしたが、与えられた機会は積極的に受け入れ、ゴールを設定して乗り越えてきました。

--どのような経緯で現在の事業に関わるようになったのでしょうか?

清明氏:2013年にマネックスグループに転籍し、M&Aを含む戦略企画を担当しました。2018年にはコインチェックを買収し、翌2019年4月にマネックス証券の社長に就任しました。これも特に希望したわけではなく、グループ全体の経営戦略を考えた際の人事配置として抜擢されたのだと思います。その後、COOやCFOを経験し、CEOになりました。

なぜ清明さんにCEOを任されたと捉えているか?

seimei_2清明氏:創業者の松本(現会長)が社外の方に話しているのを聞いて、なるほどと思ったのですが、「清明は権限を使い切る人だ」と。多くの人は、権限を持っていても上司の意向を気にして使いきれません。一方で私は、任された仕事に対し、自分で課題を考え、ゴールを設定し、達成のために何が必要かを判断します。そのプロセスを自分ごととして周囲も巻き込んで進めることが、評価につながったのかもしれません。あとは、結果にこだわりを持ってやり切る執念でしょうか。

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--幼少期からそういった考え方を持っていたのでしょうか?

清明氏:小さい頃から、親に「自分の人生は自分でデザインしなさい」と言われていました。自主性を尊重される環境で、自由と責任を自然に理解していった形です。習い事も、私がやりたいと言ったものを習い、一方的に何かを与えられるということはありませんでした。門限もなく「怖くなったら帰りなさい。遊びたければどうぞ。」みたいな。一般的な家庭とは少し違ったと思います。「どう思うの?」と言われたら、ちゃんと意見を言える子だったんです。常に周囲のことや周囲と自分の位置関係を客観的に観察していたんですよね。なので、社会人になってからも、「自分がどうしたいか」よりも自分の置かれた組織を一人称としてとらえ、「この組織にとって何が最善か」を考えることが多かったです。

--とはいえ、自分の考えと会社の方針がずれることはなかったのでしょうか?

清明氏:自分のやりたいことに強くこだわるタイプではありませんでした。むしろ、組織としてその課題をどう超えていくかを考えることに集中していました。あまり自分にベクトルが向いていないんです。これは私の特徴だと捉えています。もちろん、嫌なことや傷つくこともありますが、主語は常に組織や会社です。個人の成功というより、組織全体の成長を考えることが自分にとってのモチベーションでした。他のインタビューでも「欲がないね」なんて言われることがありますが、実際には一個人を越えて、組織や会社の成長を願うという意味では、むしろ「欲深い」と思います。

CEOとしての課題をどう乗り越えたか

seimei_3清明氏:私は特別に優れた人間ではないと自覚しています。「こう見られたい」という欲もなく、できることを積み重ねるタイプです。運動でも何でも、努力しなければできないので、ひたすら練習してきました。だからこそ、自分に過度な期待はしません。一方で、会社やチームには高い目標を掲げてやろうよと言ってます。仲間と一緒なら乗り越えられると。なんだかよくわからない、根拠のない自信があるという感じです。「信じる力」を大切にしています。そしてもう一つ、「忘れる力」も必要です。困難や嫌なことは常にありますが、それを気にしすぎると暗くなってしまいます。私は趣味や睡眠を通じてネガティブな感情は忘れることを習慣にしています。明るさを保つことが、困難を乗り越えるうえで重要です。私は昔から、目の前のゴールと長期的なゴールを常に設定しています。突然高い目標を掲げるのではなく、常に「次はこれをやろう」と考えながら進んできました。そうすることで、大きな挫折を感じにくくなります。もちろん、自分の能力が足りていないと感じることは多々あります。周囲の話が理解できず、落ち込むこともあります。でも、それが当たり前だと思うようにしています。「最初から完璧にできるわけがないよね」と考えることで、前に進めるのだと思います。

CEOとしてのやりがい

seimei_4清明氏:グループ全体のCEOとしての役割は、企業の方向性を決め、ビジョンを示しながら、企業価値を高めることです。私たちは上場企業なので、CEOのKPIは株価を上げることだと考えています。株価は過去ではなく未来への期待値で決まるため、常に「どうやって未来をつくるか」を考えています。事業の成長や人材の確保も、すべて未来をつくるためのものです。そのために必要であればM&Aも実施し、組織を最適化していきます。自分がすべてをやるわけではなく、「この方向がいいよね」と示し、皆がそれに共感し動いていく組織づくりを心がけています。

--M&Aにおいて、特に気をつけていたことはありますか?

清明氏:絶対的に大事なのは「リスペクト(尊重)」ですね。価値観や文化は統一できるものではありません。だからこそ、お互いを尊重し合うことが何より重要になります。私たちは2011年にアメリカのトレードステーションを買収しましたが、最初は非常に苦労しました。「グローバルだ!」と意気込んで買収しましたが、デュー・デリジェンスの時に想定したことと異なる環境となり、買収から5年くらいは業績が思ったように上がらず、とても苦労しました。ただ、だからといって私たちが一方的に経営陣を責めたり、無理に統制しようとしたりすることはしませんでした。もちろん、ガバナンスの観点から指摘やアドバイスもしますし、執行体制の変更も実施しましたが、元々あったカルチャーや価値観を尊重することを大前提としながら、「私たちが目指す方向はここだよね」と粘り強く対話を重ねてきました。その過程で、必要に応じたコスト削減や人員整理も行いましたが、単なる効率化ではなく、企業の成長を見据えた対応でした。結果的に、現在ではトレードステーションはグループの稼ぎ頭になっています。現在グループ全体で社員は1,500人ほどですが、その半数近くがトレードステーションのメンバーです。コインチェックの買収の際も、同様に大きな課題がありました。私たちは金融の会社ですが、コインチェックのメンバーは必ずしも金融畑の人材ではありません。考え方やカルチャーがまるで違いましたし、初めは「話している言語が違うのでは?」と思うほどでした。それでも、買収の際に話した「世の中に新しい価値を提供していこう」という理念に基づき、必要なコミュニケーションを粘り強く続けました。私たちはコインチェックのブランドやポテンシャルを評価し、それをより大きく成長させるために買収したのであって、ただ統一化するために買ったわけではありません。コインチェックの強みを活かしながら、マネックスのリソースを活用して世の中に新しい価値を提供する。それが目的だったのです。そのため、尊重する部分は最大限尊重しつつ、金融機関として絶対に譲れない部分については明確に伝え、リスク管理を徹底しました。コミュニケーションは欠かせません。摩擦もありましたが、それはお互いにとって必要なプロセスだったと思います。

--コインチェックの買収は、ベンチャー業界から見ると非常にドラスティックな展開だったと思いますが、実際のところはどうだったのでしょうか?

清明氏:「まさかマネックスが買収するとは」と思われましたし、ハッキング事件直後の買収だったので、一般的な金融機関から見れば相当なリスクを取ったように見えたでしょう。しかし、私たちはもともとインターネット証券という、テクノロジーを活用したビジネスモデルで成長してきました。もしインターネットがなかったら、オンライン証券という業態は生まれていなかったわけです。インターネットの発展が証券ビジネスを大きく変えたように、ブロックチェーン技術もまた、金融業界に大きな変化をもたらすと考えました。今でこそAIが話題になっていますが、それと同じように、新しいテクノロジーが人々の生活や金融業界を変えていく。その変革に関わっていたいという想いがありました。CEOとしての仕事は、既存のサービスや商品に固執するのではなく、新しい技術を取り入れ、新しいサービスを生み出し、未来を切り拓いていくことです。企業は挑戦し続けなければ生き残れません。私たちは、コインチェックの持つ技術、人材、ビジョンに未来を感じたからこそ、買収を決断しました。

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--コインチェックグループがナスダック上場を実現できた要因は何だったのでしょうか?

清明氏:一言で言えば、「執念」です。2018年にM&Aを発表したときから、コインチェックグループは上場すべきだと考えていました。東証ではなくNASDAQを選んだのは、ブロックチェーン技術がグローバルだからです。NASDAQ上場の方が、成長企業としての魅力も伝わりやすい。当初は1年で上場できると思っていましたが、実際には3年かかりました。市場環境の変化、FTXの破綻など、様々な要因で予定が延びました。途中で諦める選択肢もありましたが、可能性がある限り挑戦し続けることを選びました。私たちは証券ビジネスを基盤に持ち、リスクと安定収入のバランスを取りながら、長期的な成長を追求しています。ビジネスポートフォリオを意識した経営ができたことも、成功の要因だったと思います。 

今後どのような社会貢献を考えていますか

seimei_5清明氏:日本は「失われた30年」と言われ、ようやくデフレから脱却してきたものの悲観的に見られがちです。でも、私はこの時代の転換期は金融や資産運用の世界にとってはポジティブで、日本にはまだまだ明るい未来があると考えています。投資や老後の資金準備など、取り組むべきことはたくさんあります。私たちはウェルビーイングの向上に貢献できる業務を担っていると感じています。「失われた30年」を経験している人は、ある意味で過去の視点にとらわれすぎているのではないかと思います。でも、リーマン・ショック後やアベノミクス以降に資産形成を始めた若い世代にとっては、成長しか見えていないんです。彼らが見る未来と、またあんな過去がいつか来るのではと思っている人が語る未来は違います。だからこそ、私たちは明るい未来を示していきたい。「お金」という観点から、個人がよりハッピーに生きていけるように貢献したいですね。例えば、マネックスとドコモが提携し、コインチェックグループがNASDAQに上場して成長する。その結果、「こんな便利なサービスがあるんだ」「投資のおかげで人生が楽しくなった」と思える人が増える。そうやって、日本全体を明るくするインパクトを生み出していきたいと考えています。

CxOキャリアを歩む上で、お金の課題やキャリアアップのポイントは?

清明氏:「なぜCxOを続けたいのか?」によると思います。CFOでもCOOでもCEOでも、役職そのものが目的化すると、見栄やエゴに左右されることもあります。でも「なぜこの事業をやりたいのか」「CxOという立場で組織をどんな風に成長させたいのか」という根本的な部分が大事なんじゃないかと思います。私はマネックスに17年ほど在籍し、2年ごとに昇進してきました。でも、お金という観点で言えば、他社に移った方が報酬が上がるタイミングはいくらでもありました。でもそれを気にしたことはなくて、「CEOまで昇りつめるぞ」といった野心があったわけでもないんです。ただ、単純にこの仕事が好きだったんですよね。「こうすればもっと会社が成長するんじゃないか」「この課題を解決すれば面白くなるんじゃないか」と思いながら、純粋に楽しんで取り組んできました。だから、お金の計算はあまりしなかったですね。昨日もある人に「何の対策もしていないんだね」と言われましたが、本当にその通りです(笑)。

--事業が好きで続けたいけれど、お金の問題で難しくなるケースもありますよね。

清明氏:そうですね。本当は事業に集中したいのに、資金がないと事業も続けられないからといって気づけば事業よりも資金調達に追われる…という会社は多いです。実際、当社も資金調達のプロになりたいのではなく事業を成長させたいという会社をM&Aしています。資金調達の負担がなくなれば、経営に集中できる。そういう意味でM&Aは意義があると思います。ただ、「自分でIPOして成功したい」という強い意志があるなら、自分でやるしかないですよね。最も重要なことは、やっている事業やチームに価値があるのか、です。

--ただ、子会社になると自由度が減るので、逆にしんどくなることもあると思います。

清明氏:それは結局「パートナーの選び方」が大事なんですよ。M&A全般に言えることですが、売却先を慎重に選ばないといけない。そういう意味では、コインチェックグループのケースはスタートアップの人たちにとって夢を与えるものだと思います。
親子上場は管理の面で非常に難しいので、普通はやりたがらないものなんです。でも今回、コインチェックはその壁を乗り越えた。本当にレアなケースだと思います。
今、コインチェックの未来はとても明るい。マネックスの信頼と、金融業界のレギュレーションのもとで運営されている。今でこそ「良かった」と思われていますが、当時は「金融のルールが面倒くさい」と思われていたかもしれませんね(笑)。

CxOとしてのワークとライフの捉え方

seimei_黒部五郎岳清明氏:私の場合は完全にセットですね。ずっと仕事をしているわけではなく、趣味も多くて、土日も忙しく過ごしています。自分の時間をフルに使って楽しむことで、「また月曜日から頑張ろう」という気持ちになれるんです。だから、仕事とプライベートを分けるというより、どちらも充実させることでバランスが取れている感じですね。

--未来の展望について、何か考えていることはありますか?

清明氏:…私は創業者ではないですし、自分が何か新しく起業できるとも思っていません。でも、今考えているのは「次の世代へどうバトンを渡すか」です。日本では、創業者がCEOを引退した後、結局また創業者に戻るケースがありますよね。でも、そうではなくて「まだまだ成長していく」という状態で次の経営者に引き継げるようにしたい。具体的にどれくらいの時間がかかるかは分かりませんが、3年、5年、10年… 20年もかかるとさすがに長すぎると思っています(笑)。アメリカでは、CEOは40代で就任し、10年ほど務めた後、次の40代のリーダーへバトンを渡してサステナブルに成長させることに努める企業が多いです。私は45歳でCEOになったので、55歳くらいまでには次の世代へつなぎたいですね。そして、その時には、今よりもっと大きな未来が見えている状態を作っていたい。その先のことは正直まだ分かりません。日本では「プロ経営者がいない」と言われますが、私は別にプロ経営者になりたいわけではないんです。ただ、うちの会社の人たちが本当に好きなんですよ。今は会社に対する興味が尽きないので、それが変わるまでは挑戦を続けていきたいと思っています。

スタートアップを目指す人へのメッセージ

seimei_6清明氏:私たちは、数字の足し算だけでM&Aをしているわけではありません。いわゆる「アクハイヤー」として、一緒に働き、同じチームの仲間としてマネックスグループを大きくしてくれるメンバー探しのためにM&Aを活用することもあります。小規模なM&Aも積極的に行い、タレントの発掘にも力を入れています。当社は金融をベースにしていますが、金融にこだわっていると新しいサービスは生まれません。そのため、金融の基盤を持ちながら、技術を活用して新しい価値を生み出していくことを重視しています。「僕たちならこういうことができます!」と感じられるスタートアップの方々がいれば、ぜひお話を聞きたいですね。M&Aはすごく美しい仕組みだと思っていますし、ディールに繋がらなくても、どこかで世界がつながる可能性があると考えています。

--…どんな人がマネックスに合うと思いますか?

清明氏:自立していて人間性が良い人ですね。当社には派閥や社内政治がないので、対立構造で物事を考える人は合わないかもしれません。「この組織はこう」「あの部署はこう」と線引きするのではなく、オープンな姿勢でいろんな人と関われる人がいいですね。もちろん、人間なので妬みや嫉妬はあるかもしれませんが、それが表に出てこないカルチャーなんです。自分のことも、他人のことも信頼できて、自分にも期待し、他人にも期待できる。そして、自分事で業務に取り組み、やり切る。そういう人や、良いものを持っている会社とは、すごく相性がいいと思います。

--ありがとうございました!

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