CxOキャリアストーリー012
CxO キャリアサマリー
清明 祐子 氏
マネックスグループ株式会社 取締役兼代表執行役社長CEO
清明氏:もともと経営者になりたいという夢は持っていませんでした。特定の職業を目指すというより、選択肢を広く持ちたいと考え、銀行に入りました。私はゴール達成型の考え方なので、その時々の課題に向き合いながら進んできました。マラソンや短距離走のように、常にゴールを設定し、達成したら次へ進むというスタイルです。経営者や社長を目指していたわけではなく、目の前のことに集中し、成長し続けることを大切にしてきました。
--最初のCxOはいつ、どんな会社ですかゆうこ
清明氏:初めて社長になったのは2011年6月です。M&Aを手掛ける子会社、マネックス・ハンブレクト(2017年にマネックス証券と合併)の社長に就任しました。そのときも「社長になりたい」と思っていたわけではありません。当時の経営陣が人材育成の一環として「この若手に機会を与えよう」と考えた結果、私にチャンスが巡ってきたのだと思います。それまで意識していませんでしたが、与えられた機会は積極的に受け入れ、ゴールを設定して乗り越えてきました。
--どのような経緯で現在の事業に関わるようになったのでしょうか?
清明氏:2013年にマネックスグループに転籍し、M&Aを含む戦略企画を担当しました。2018年にはコインチェックを買収し、翌2019年4月にマネックス証券の社長に就任しました。これも特に希望したわけではなく、グループ全体の経営戦略を考えた際の人事配置として抜擢されたのだと思います。その後、COOやCFOを経験し、CEOになりました。
--幼少期からそういった考え方を持っていたのでしょうか?
清明氏:小さい頃から、親に「自分の人生は自分でデザインしなさい」と言われていました。自主性を尊重される環境で、自由と責任を自然に理解していった形です。習い事も、私がやりたいと言ったものを習い、一方的に何かを与えられるということはありませんでした。門限もなく「怖くなったら帰りなさい。遊びたければどうぞ。」みたいな。一般的な家庭とは少し違ったと思います。「どう思うの?」と言われたら、ちゃんと意見を言える子だったんです。常に周囲のことや周囲と自分の位置関係を客観的に観察していたんですよね。なので、社会人になってからも、「自分がどうしたいか」よりも自分の置かれた組織を一人称としてとらえ、「この組織にとって何が最善か」を考えることが多かったです。
--とはいえ、自分の考えと会社の方針がずれることはなかったのでしょうか?
清明氏:自分のやりたいことに強くこだわるタイプではありませんでした。むしろ、組織としてその課題をどう超えていくかを考えることに集中していました。あまり自分にベクトルが向いていないんです。これは私の特徴だと捉えています。もちろん、嫌なことや傷つくこともありますが、主語は常に組織や会社です。個人の成功というより、組織全体の成長を考えることが自分にとってのモチベーションでした。他のインタビューでも「欲がないね」なんて言われることがありますが、実際には一個人を越えて、組織や会社の成長を願うという意味では、むしろ「欲深い」と思います。
--M&Aにおいて、特に気をつけていたことはありますか?
清明氏:絶対的に大事なのは「リスペクト(尊重)」ですね。価値観や文化は統一できるものではありません。だからこそ、お互いを尊重し合うことが何より重要になります。私たちは2011年にアメリカのトレードステーションを買収しましたが、最初は非常に苦労しました。「グローバルだ!」と意気込んで買収しましたが、デュー・デリジェンスの時に想定したことと異なる環境となり、買収から5年くらいは業績が思ったように上がらず、とても苦労しました。ただ、だからといって私たちが一方的に経営陣を責めたり、無理に統制しようとしたりすることはしませんでした。もちろん、ガバナンスの観点から指摘やアドバイスもしますし、執行体制の変更も実施しましたが、元々あったカルチャーや価値観を尊重することを大前提としながら、「私たちが目指す方向はここだよね」と粘り強く対話を重ねてきました。その過程で、必要に応じたコスト削減や人員整理も行いましたが、単なる効率化ではなく、企業の成長を見据えた対応でした。結果的に、現在ではトレードステーションはグループの稼ぎ頭になっています。現在グループ全体で社員は1,500人ほどですが、その半数近くがトレードステーションのメンバーです。コインチェックの買収の際も、同様に大きな課題がありました。私たちは金融の会社ですが、コインチェックのメンバーは必ずしも金融畑の人材ではありません。考え方やカルチャーがまるで違いましたし、初めは「話している言語が違うのでは?」と思うほどでした。それでも、買収の際に話した「世の中に新しい価値を提供していこう」という理念に基づき、必要なコミュニケーションを粘り強く続けました。私たちはコインチェックのブランドやポテンシャルを評価し、それをより大きく成長させるために買収したのであって、ただ統一化するために買ったわけではありません。コインチェックの強みを活かしながら、マネックスのリソースを活用して世の中に新しい価値を提供する。それが目的だったのです。そのため、尊重する部分は最大限尊重しつつ、金融機関として絶対に譲れない部分については明確に伝え、リスク管理を徹底しました。コミュニケーションは欠かせません。摩擦もありましたが、それはお互いにとって必要なプロセスだったと思います。
--コインチェックの買収は、ベンチャー業界から見ると非常にドラスティックな展開だったと思いますが、実際のところはどうだったのでしょうか?
清明氏:「まさかマネックスが買収するとは」と思われましたし、ハッキング事件直後の買収だったので、一般的な金融機関から見れば相当なリスクを取ったように見えたでしょう。しかし、私たちはもともとインターネット証券という、テクノロジーを活用したビジネスモデルで成長してきました。もしインターネットがなかったら、オンライン証券という業態は生まれていなかったわけです。インターネットの発展が証券ビジネスを大きく変えたように、ブロックチェーン技術もまた、金融業界に大きな変化をもたらすと考えました。今でこそAIが話題になっていますが、それと同じように、新しいテクノロジーが人々の生活や金融業界を変えていく。その変革に関わっていたいという想いがありました。CEOとしての仕事は、既存のサービスや商品に固執するのではなく、新しい技術を取り入れ、新しいサービスを生み出し、未来を切り拓いていくことです。企業は挑戦し続けなければ生き残れません。私たちは、コインチェックの持つ技術、人材、ビジョンに未来を感じたからこそ、買収を決断しました。
--コインチェックグループがナスダック上場を実現できた要因は何だったのでしょうか?
清明氏:一言で言えば、「執念」です。2018年にM&Aを発表したときから、コインチェックグループは上場すべきだと考えていました。東証ではなくNASDAQを選んだのは、ブロックチェーン技術がグローバルだからです。NASDAQ上場の方が、成長企業としての魅力も伝わりやすい。当初は1年で上場できると思っていましたが、実際には3年かかりました。市場環境の変化、FTXの破綻など、様々な要因で予定が延びました。途中で諦める選択肢もありましたが、可能性がある限り挑戦し続けることを選びました。私たちは証券ビジネスを基盤に持ち、リスクと安定収入のバランスを取りながら、長期的な成長を追求しています。ビジネスポートフォリオを意識した経営ができたことも、成功の要因だったと思います。
清明氏:「なぜCxOを続けたいのか?」によると思います。CFOでもCOOでもCEOでも、役職そのものが目的化すると、見栄やエゴに左右されることもあります。でも「なぜこの事業をやりたいのか」「CxOという立場で組織をどんな風に成長させたいのか」という根本的な部分が大事なんじゃないかと思います。私はマネックスに17年ほど在籍し、2年ごとに昇進してきました。でも、お金という観点で言えば、他社に移った方が報酬が上がるタイミングはいくらでもありました。でもそれを気にしたことはなくて、「CEOまで昇りつめるぞ」といった野心があったわけでもないんです。ただ、単純にこの仕事が好きだったんですよね。「こうすればもっと会社が成長するんじゃないか」「この課題を解決すれば面白くなるんじゃないか」と思いながら、純粋に楽しんで取り組んできました。だから、お金の計算はあまりしなかったですね。昨日もある人に「何の対策もしていないんだね」と言われましたが、本当にその通りです(笑)。
--事業が好きで続けたいけれど、お金の問題で難しくなるケースもありますよね。
清明氏:そうですね。本当は事業に集中したいのに、資金がないと事業も続けられないからといって気づけば事業よりも資金調達に追われる…という会社は多いです。実際、当社も資金調達のプロになりたいのではなく事業を成長させたいという会社をM&Aしています。資金調達の負担がなくなれば、経営に集中できる。そういう意味でM&Aは意義があると思います。ただ、「自分でIPOして成功したい」という強い意志があるなら、自分でやるしかないですよね。最も重要なことは、やっている事業やチームに価値があるのか、です。
--ただ、子会社になると自由度が減るので、逆にしんどくなることもあると思います。
清明氏:それは結局「パートナーの選び方」が大事なんですよ。M&A全般に言えることですが、売却先を慎重に選ばないといけない。そういう意味では、コインチェックグループのケースはスタートアップの人たちにとって夢を与えるものだと思います。
親子上場は管理の面で非常に難しいので、普通はやりたがらないものなんです。でも今回、コインチェックはその壁を乗り越えた。本当にレアなケースだと思います。
今、コインチェックの未来はとても明るい。マネックスの信頼と、金融業界のレギュレーションのもとで運営されている。今でこそ「良かった」と思われていますが、当時は「金融のルールが面倒くさい」と思われていたかもしれませんね(笑)。
--未来の展望について、何か考えていることはありますか?
清明氏:…私は創業者ではないですし、自分が何か新しく起業できるとも思っていません。でも、今考えているのは「次の世代へどうバトンを渡すか」です。日本では、創業者がCEOを引退した後、結局また創業者に戻るケースがありますよね。でも、そうではなくて「まだまだ成長していく」という状態で次の経営者に引き継げるようにしたい。具体的にどれくらいの時間がかかるかは分かりませんが、3年、5年、10年… 20年もかかるとさすがに長すぎると思っています(笑)。アメリカでは、CEOは40代で就任し、10年ほど務めた後、次の40代のリーダーへバトンを渡してサステナブルに成長させることに努める企業が多いです。私は45歳でCEOになったので、55歳くらいまでには次の世代へつなぎたいですね。そして、その時には、今よりもっと大きな未来が見えている状態を作っていたい。その先のことは正直まだ分かりません。日本では「プロ経営者がいない」と言われますが、私は別にプロ経営者になりたいわけではないんです。ただ、うちの会社の人たちが本当に好きなんですよ。今は会社に対する興味が尽きないので、それが変わるまでは挑戦を続けていきたいと思っています。
--…どんな人がマネックスに合うと思いますか?
清明氏:自立していて人間性が良い人ですね。当社には派閥や社内政治がないので、対立構造で物事を考える人は合わないかもしれません。「この組織はこう」「あの部署はこう」と線引きするのではなく、オープンな姿勢でいろんな人と関われる人がいいですね。もちろん、人間なので妬みや嫉妬はあるかもしれませんが、それが表に出てこないカルチャーなんです。自分のことも、他人のことも信頼できて、自分にも期待し、他人にも期待できる。そして、自分事で業務に取り組み、やり切る。そういう人や、良いものを持っている会社とは、すごく相性がいいと思います。
--ありがとうございました!