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【CxOキャリア】山田尚貴氏のキャリアストーリー

CxO MAGAZINE編集部
2025/03/14 12:00:00

CxOキャリアストーリー013

EXIT後の再挑戦は長く多くの人が使い続けられるがテーマ

CxO キャリアサマリー

山田 尚貴 氏
株式会社modo 代表取締役

  • 2005年 カリフォルニア州立大学ロングビーチ校卒業
  • 2006年 NTTPCコミュニケーションズ入社
  • 2009年 株式会社エニドアを創業
  • 2016年 M&Aで株式会社ロゼッタへ会社を売却
  • 2023年 株式会社modoを創業
    ファミリー向けのアプリ memStockを開発運営

CxOのキャリアを選んだきっかけや背景は?

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山田氏:私はアメリカの大学で起業経営学を学びました。最初はクラスメイトの中にはすでに起業している人も多く、ただ漠然と起業という選択肢もあるんだなくらいに思っていましたね。その中で、アメリカ人は自国に対する誇りが強く、自分は「日本のことも日本のビジネスもぜんぜんわかってなかったな」と気付かされたんです。だから、日本企業の成長モデルを知るには、大企業に入るのが良いと考え、新卒でNTTに入りました。ちょうど「ITがこれから来るぞ」と言われていた時代でもありましたし、自分は文系寄りだったのでエンジニア的な感覚も身につけたいという理由で、NTTコミュニケーションズの子会社であるNTTPCに入社し、キャリアをスタートさせました。ただ、最初から「3年で辞めよう」と決めていました。入社時の挨拶で「3年頑張ります」と正直に言ったらドン引きされた記憶がありますね(笑)。実際は2年半くらいで辞めましたがw

--新卒から2年半で起業の道を選んだのは、何かきっかけがあったのですか?

yamada_India山田氏:大きな転機になったのは、2年目の終わりに受けたインド研修ですね。NTTグループの公募で、十数人がインドに派遣されるプログラムがあって、応募したら選ばれたんです。インドでは、児童労働の問題を目の当たりにしました。児童労働から救われた子供たちが暮らす施設に1週間ほど寝泊まりし、一緒に過ごしたりする機会があったんです。その中で「将来の夢は?」と聞くと、ほとんどの子が「エンジニアになりたい」と答えました。インドはカースト制の影響で、社会的なヒエラルキーが非常に厳しい。でも、当時はITエンジニアがスターのような存在になりつつあって、「エンジニアになれば何千万円も稼げる」と彼らは夢を持っていました。それがすごく衝撃的だったんです。一方で、エンジニアとして彼らに「エンジニアはいい仕事だよ」と自信を持って言えるかと考えたとき、「いや、自分がやりたいのは起業だったな」と改めて気づいたんです。研修が終わり、日本に帰ってきて2〜3日後には「辞めます」と伝えました。インドに行かせてもらった会社には申し訳なかったですが、3ヶ月かけて引継ぎをして退職しました。

一度目の起業、苦悩と決断

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山田氏:NTTを退職したのは25歳でした。次の進路を決めずに辞めたので、貯金もほとんどなく、かなり危機的な状況でした。そんな中、同じタイミングで辞めた同期(後に共同創業するメンバー)と話しているうちに、「ITの進化の中で新しいビジネスが生まれるのでは?」という話になりました。彼が提案したのは「翻訳者のマッチングサービス」でした。翻訳を必要とする人と翻訳者をつなげることで、新たな価値を生み出せるのではないかと考えたのです。NTT時代、アメリカ帰りだったこともあり、外国語のドキュメント翻訳を頼まれる機会が多く負担に感じていたので、私自身もそのニーズを感じていました。「アウトソース(外注)できれば楽になる」という実感があり、別の同期も加わり3人で事業化に向けて動き始め、2009年、26歳で起業しました。その7年後にはM&Aで会社を売却しましたが、今振り返るとこの期間は大変でしたね。当時は「大変」と感じる余裕すらないくらいに。特に苦しかったのは資金繰りです。2009年はリーマン・ショック直後で、資金調達の環境は厳しい状況でした。2011年初めには大きめの資金調達がまとまりそうだったのですが、直後に東日本大震災が発生し、すべて白紙になりました。2013年にはまとまった金額を調達できたものの、その直後に経営が厳しくなり、多くの社員に退職してもらうことにもなりました。2015年にはM&Aの話も進めましたが、当時のバリュエーション(企業価値評価額)が前回ラウンドで投資家が評価してくれた額より低かったため、このまま売却すると損をする人が出ると考え、もう1年利益を伸ばすことに注力しました。その結果、売上、利益共に成長させる事ができ、全ての投資家が一定利益を出せるバリュエーションで売却することができました。

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--売却額から考えるといろんな選択肢もあったと思うのですが、それでも売却を決断したのにはどのような背景があったのですか?

山田氏:売却を決めた背景は、機械翻訳技術の進化です。当時、翻訳のクラウドソーシング事業を展開していましたが、ディープラーニングの普及により、機械翻訳の精度が飛躍的に向上していました。このままでは、翻訳サービスの価値が急速に低下すると判断しました。事業の方向性を変える選択肢もありましたが、より大きなシナジーを生み出せる企業と組む方が得策と考え、機械翻訳や人材系の企業と交渉し、最終的に売却を決断しました。2017年にはGoogle翻訳等の精度が飛躍的に向上し、業界全体が大きく変わりました。ですから、売却のタイミングは非常に良かったと思います。当時、様々な意見をもらいましたが、最終的には自分で決断しました。その後、2022年まで会社の経営を行い辞任しました。(2024年末で事業終了)

--当時の心境はどうでしたか?

山田氏:時代の流れには逆らえないなと。大きなパラダイムシフトが起こると、従来の産業は一瞬で変わってしまう。これは翻訳業界に限らず、多くの業界で起こっていることです。だからこそ、常に変化に適応し、新しいことに挑戦し続けることが大切だと改めて感じました。当時はもうすでに新しいことを始めていたので、思っていたよりも感傷的になることはなかったですね。

再びの挑戦。今の事業を選択した理由とは?

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山田氏:前の事業をやめるタイミングで、新しく何かを始めようとは思っていたのですが、すでに世の中にあらゆるサービスが出尽くしているのでは?という感覚がありました。だからこそ、「10年以上続けられて、多くの人に使ってもらえる事業」、そして「前回の起業よりも社会に大きな価値を提供できるもの」を考えていたんです。ただ、そう簡単に見つかるものではなく、最終的には自分が本当に好きなものは何か?というところに立ち返りました。そこで気づいたのが、「家族と過ごす時間が好き」だということ。だったら、家族に対して価値を提供できるサービスを作ろうと考えたのが、今の事業の出発点でした。
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2024年1月 ファミリーアプリ「memStock」をリリース

--今のメンバーは、前の事業のメンバーと一緒ですか?

山田氏:そうですね。前の事業のメンバーと少人数でやっています。一度一緒に事業をやった仲間とは、お互いの強みや弱みを理解しているので、コミュニケーションコストが圧倒的に低いというのは、再び一緒にやるメリットですね。「こう伝えれば理解してもらいやすい」「こう伝えると対立が生まれそう」といった感覚が共有できていると、スピード感を持って進めることができます。この点は、二度目の起業だからこその強みかなと思っています。起業を続けていく上で「社内で敵を作らないこと」が大事だと思っていて、どうしてもビジネスをやっていると対立が生まれがちですが、長期的に見たときにそれが良い結果を生むことはほとんどありません。だからこそ、人とのつながりや関係の維持を大切にしています。

二度の起業を振り返り、今はどのように感じていますか?

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山田氏:今、42歳なんですが、20代で起業した頃と今回の起業を比べると、一番の違いはやっぱり経験値ですね。それが良い部分でもあるし、環境の変化も大きいなと感じています。今は市況が悪いとはいえ、昔と比べれば天国と地獄くらい違うので、スタートアップにとってはかなり恵まれた時代になったと思います。ただ、20代と40代では体力が全然違うんですよね。20代の頃は3日徹夜してもなんとか乗り切れていたのが、今は1日徹夜しただけで1週間ダメージが残る(笑)。そういう意味で、今は体調管理も含めて長く続けられるやり方を考えないといけないなと思っています。今取り組んでいる事業は家族向けのサービスですが、ファミリーアプリだけでしっかりと利益を出して成功している事例って、実はあまりないんですよね。だからこそ、長く続けられる収益基盤をどう作るかが一番の課題になっています。例えば、インフラ的なサービスを目指すなら、短期的な利益だけでなく、継続して収益を生み出せるモデルが必要です。そこが大きなチャレンジになっていると感じています。

--今後の事業の成長はどのように考えていますか?

山田氏:基本的にはスタートアップ的な成長を目指しているんですが、一方で「続かないと意味がない」というのも強く思っています。上場すれば一気に状況が変わりますし、株主の期待や市場の評価に左右される部分も大きくなる。でも、それが本当にいいことなのか?というのは、正直なところ悩んでいます。今、資金調達についても動いていますが、「本当に今のタイミングで調達するのが正解なのか?」ということは模索中ですね。もちろん早く成長させたい気持ちはあるものの、それが必ずしも最善の道とは限らない。今はそのバランスをどう取るかを慎重に考えながら進めています。

CxOとしてのワークとライフの捉え方

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山田氏:2013年に最初の子供が生まれたタイミングで、ライフスタイルを大きく変えました。それまでは会食や飲み会が当たり前でしたが、そこからは週に1回以上は会食しないと決めて、子供との時間を増やすようにしました。それでも、前の事業はしっかり回せていたので、仕事と家庭のバランスはうまく取れていたのかなと思います。今後も子どもの成長に合わせて事業作りと子育てをしっかりと全力で取り組みたいと思っています。

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--事業や経営を通じて、社会にどのようなインパクトや貢献をしたいとお考えですか?

山田氏:今の事業の延長でいくと、より多くの家庭に使ってもらい、少しでも幸せな家庭が増やせる事業を提供することが目標です。また、個人的な社会貢献としても、世の中にインパクトを残せる事業をやりたいという思いが、最初の起業時から変わっていません。前回の事業では、グローバルで使ってくれるユーザーもいて、「人生が変わった」といったメールをもらうこともありました。ただ、総量としてはまだ少なかったと感じています。今回は、より大きな規模で、社会に良いインパクトを与えられる事業を作っていきたいという思いで取り組んでいます。

CxOキャリアを歩みたい人へのメッセージ

清明氏:「自分が熱中できる環境に身を置く」というのが、一番大事だと思います。サラリーマン時代はスキルを吸収して成長は感じていたものの、熱中はできていなかったんですよね。学びの時間としては価値がありましたが、熱量はどんどん下がっていくのを感じていました。だからこそ、自分が本当に熱中できる環境にいるかどうかを常に意識するべきだと思います。もし今いる環境で熱量を感じられないのであれば、環境を変えることも必要かもしれません。大きなポジションに就いている人でも、情熱を失ってしまうと、短期的には問題なくても、長期的には「この時間は無駄だった」と後悔してしまうことがあると思います。だからこそ、自分の情熱に真摯に向き合い続けることが、CxOとしてのキャリアを歩む上で大切だと感じています。

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