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【CxOキャリア】室伏陽氏のキャリアストーリー

CxO MAGAZINE編集部
2025/04/25 12:00:00

CxOキャリアストーリー017

アフリカ7年の起業経験を経て得た今と見据える未来とは?

CxO キャリアサマリー

室伏 陽 氏
株式会社Optys Solutions 代表取締役

  • 2012年 山田コンサルティンググループ㈱ 入社
  • 2014年 デロイトトーマツコンサルティング(同) 入社
  • 2017年 ㈱ワールドリード 共同創業 副社長就任
  • 2017年 アンドアフリカ㈱ 設立 代表取締役就任
    2024年 アンドアフリカ事業活動終了
  • 2024年 ㈱Optys Solutions 設立 代表取締役就任
  • 2025年 東京科学大学 客員起業家就任(バイオテック起業中)

CxOのキャリアを選んだきっかけや背景は?

murofushi_2-1室伏氏:私は普通のサラリーマン家庭で育ったので、幼少期から経営者を目指していたわけではないんです。研究職を目指し、東北大学の大学院へ通っていたのですが、東日本大震災をきっかけに人生観が大きく変わったんです。しかもその日は自分の誕生日でもありました。当時はバイオサイエンスの基礎研究をしていた頃で、停電によってフリーザーで保管していた乳酸菌の検体や、1年間かけて積み上げた研究試薬がすべて溶け、努力の結晶が一瞬で失われました。それに加えて、身近な人の死や、キャンパスや自宅などの建物の壊滅的な状態を目の当たりにし、普通に生活できること自体が、実は当たり前ではないんだと強く実感しました。命あるものには必ず終わりがあり、人も例外ではなくすぐそばにあるものなんだと、初めてリアルに感じた瞬間でした。その出来事をきっかけに、人生の時間には限りがあると痛感し、自分が納得できる方向にエネルギーを注ぎたいと考えるようになりました。研究の道はやりがいがある反面、時間の使い方や結果に対するコントロールが難しい領域です。それよりも、自分の手で道を切り拓ける環境に身を置きたいと思ったんです。震災後は研究もままならず、時間ができたこともあって、関西や関東などさまざまな場所へ出向き、いろいろな人の話を聞くようになりました。そんな中で出会った起業家たちは、自分のやりたいことに情熱を注ぎながら、生き生きと自由にチャレンジしていて、彼らの姿がとても輝いて見えたんです。その姿に自分もこうありたいと強く惹かれ、起業家を志すようになりました。それがマスター1年の終わり、2012年の4月頃のことです。「まずはビジネスの基礎を身につけよう」と考え、コンサルティング会社を目指して就職活動を始めたのが、起業に繋がる第一歩でした。

再生コンサルで学んだリアル

murofushi_4室伏氏:就職活動では、2社から内定をもらいました。ひとつは大手のアクセンチュア、もうひとつは中堅規模の山田ビジネスコンサルティンググループでした。会社全体が見える環境の中で、特に事業再生のコンサルに携われる点に魅力を感じ、最終的には山田ビジネスを選びました。入社は2012年4月で、在籍したのは実質2年3ヵ月と早いタイミングで辞めることにはなりましたが、大きな気づきが得られた時間でもありました。再生コンサルのお客様の多くは、銀行からお金を借りて、それを返せなくなってしまった企業の経営者たちでした。一見すると追い詰められているような状況でも、そうした経営者たちも意外と自由な暮らしをしていることが大きな発見でしたね。一方で、当然ながらそこには大きな責任もあります。経営者の背後には従業員がいて、その家族がいて、中には深刻な状況に置かれている方もいる。そうした現実を前にして「経営の責任とは、金銭以上に人間的なものなんだ」と痛感しました。この仕事を通して学んだのは、お金に対する現実的な視点です。銀行から借りた資金についても、状況によっては柔軟な対応が可能だと知りました。たとえば、返済スケジュールの見直しを重ねたり、事業の一部を新会社へ移管するなど、再生の現場では現実的な手段として選ばれるケースもあります。とはいえ、お金が命より重いことは絶対にないということも、この仕事で学びました。経営に行き詰まって苦渋の決断をしてしまう人もいる中で、すべては“心の持ちよう”であるということに、24歳の自分は強く気づかされました。突き詰めると、メンタルの状態がすべてを左右するんだと。

--経営者は楽観と悲観の両方を持たなければならないし、命を削るほどのものではないという感覚も、もっと広まっていいと思います。特に日本人は責任感が強い一方で、状況を切り抜けるノウハウを知らないことも多いですよね。

室伏氏:そう思います。振り返ってみても、あの経験は本当に貴重でした。スキル面でいうと、財務三表をベースに、どんなアクションが財務数値にどう反映されるのかをイメージしながら、シミュレーションを組み立てる力が身につきました。計画と現実の差分を見ながら、そこをどう調整していくか。そうした一連のプロセスを通して、数値をコントロールする力を養えたのは大きかったと思っています。

視野を広げたくて、次のステージは“世界”へ

murofushi_3室伏氏:次は、海外を視野に入れてみたくなり、デロイトトーマツコンサルティングに移りました。 前職では国内の中小企業を多く支援していたんですが、世界全体の動きや グローバルなビジネスの現場を自分の目で見たいと思ったんです。それに、再生案件を多く扱っていたのでうまくいっていない会社の姿はよく見てきましたが、 逆に成長している企業がどのように意思決定をして、 どんな組織体制で成功しているのか——そこを知る必要があると感じたのも理由の一つです。実際に入ってみて感じたのは、やはり「意思決定の速さ」と「経営層の優秀さ」が成功企業の共通点だということでした。 ボトムアップで上がってきた情報に対して、しっかり責任をもって判断する。 そのスピードと質が結果に大きな差を生んでいると実感しました。一方で、なんとなく出世競争を勝ち抜いてきた人たちが上層部を占める企業では、 どうしても判断が遅れたり、責任の所在が曖昧になったりすることが多かったですね。あとは、クライアント企業のCXOクラスの方々と直接対話する機会が多かったことも、 大きな学びになりました。 経営の意思決定が行われるリアルな現場に触れられたのは貴重な経験でしたし、 自分が将来、経営する側になった時の視座を得るきっかけにもなったと思います。また、アジア各国のメンバーと英語で仕事を進める中で、言語の壁を越えてコミュニケーションできるようになると、一気に海外の情報も入ってくるようになりました。そこから、世界への関心や視野が自然と広がっていった感覚があります。 

アフリカで見出したCxOキャリア

murofushi_Africa02室伏氏:デロイトトーマツでは約5年間、コンサルティングに携わっていましたが、そろそろ自分でも何か始めたいなという思いが芽生えてきた時期でした。当初は、シェアハウスやシェアオフィスの運営、菅楽器が好きだったこともあって防音室のレンタルなど、いろいろなビジネスアイデアを練っていたんです。財務シミュレーションもしながら「これはどうだろう?」と自分なりに検証していましたが、どれも決め手に欠けていたというか、ピンとこなかったんですよね。そんな中、実はデロイトの仕事とは別に、副業のような形でベンチャー企業の立ち上げをサポートしていまして。その中の一人に「アフリカで日本の中古車を売りたい」という方がいました。これまで中東経由が主流だった中古車の輸出を、日本から直接アフリカへ持っていきたいという構想で、話を聞いているうちにどんどん面白くなってきて、気がつけば一緒にアフリカに行くことになっていたんです。現地に足を運んでみると、街の活気や人のエネルギーに圧倒されました。特に若い世代が圧倒的に多く、「良い未来を渇望する」みたいな、日本とはまったく違う空気感があった。一方で、インフラや仕組みがまだ整っておらず、まさに「課題の宝庫」でもある。このギャップに大きな可能性を感じたんです。「起業家として何かを始めるなら、ここかもしれない」と本気で思えました。murofushi_Africa06室伏氏:アフリカ起業の背景には、私が持つ3つの人生観の柱みたいなものがあります。ひとつは「すべてはエネルギーのフローである」という考え。世の中はエネルギーの流れでできていて、自分が使えるエネルギーは有限だけれども、良い使い方をすると、また循環して自分に巡ってくると思っているんです。 ふたつめは「時間は有限である」こと。自分がやりたいことやすべきことを一番理解出来るのは結局自分自身で、その思いに従って時間を使うべきという信念です。そして三つめが、「人生の成功とは、より多くの人に、より深く良いインパクトを与えること」。しかもそれは、自分が楽しんでいるプロセスの中でこそ可能になる。無理に誰かのために犠牲になるのではなく、自分が心からワクワクしながらやっていることが、結果的に周囲にも良い影響を与える——そう信じています。アフリカには、今も様々な可能性が広がっています。2050年には世界人口の4分の1がアフリカ人になると言われている一方で、若者の半数以上が実質的に失業している状況があります。不満や不平の蓄積が、逆に大きなチャンスになり得ると感じました。ここで日本人としてできることがあるかもしれない、より多くの人により深くインパクトを与えられるマーケットがここにはあると確信しました。最終的には、デロイトで2年7ヶ月ほど在籍した後、そのワールドリードという会社を共同創業する形で起業しました。現地にも何度も足を運び、2017年2月にはデロイトを退職し、アフリカでの事業に本格的に取り組むことにしたんです。

アフリカで気づいた本質的価値

murofushi_Africa07室伏氏:ワールドリードでは、アフリカ向けに中古車や中古パーツを販売する事業を始めました。日本の地方ディーラーと、ケニアやタンザニア、ウガンダといった東アフリカの現地ディーラーを繋ぐBtoBプラットフォームを構想し、取引成立ごとに手数料を得るモデルです。実際には、車を売ってから現地港に届くまでに約3カ月。通関などは外部に委託し、我々は車両の広告・カタログ機能に集中する計画でした。収益の目処は立っていましたが、想定以上にマーケティング費がかかり、課題も多く見えてきました。アフリカに2度渡航し、ザンビア・ウガンダ・タンザニアの3カ国を巡って見えてきたのは、輸入された中古車がただ使いまわされ、最終的に“価値の抜け殻”のようになっていく構図でした。それは、自国で価値を生み出す構造を生んでおらず、むしろ依存を助長してしまっている。これでは本質的な意味での産業や雇用は育たないと思ったのです。

--現地で肌で感じた課題だったんですね。

室伏氏:そうです。では、どうすれば価値を生み出せるかを考えたとき、たどり着いたのが「産業の創出」でした。ただ、鉱山や石油のような既得権が絡む分野ではなく、デジタル分野に可能性を感じました。現地の若者たちは安価な中国製スマホでモバイルマネーを使いこなしており、ギグワークや遠隔医療など、広がる可能性を強く感じたんです。こうして私はチームを離れ、単独で新たに「アンドアフリカ」を設立。2017年5月のことです。アンドアフリカでは中古車には絡まず、「現地で産業と雇用をつくる」ことをミッションに掲げていました。ただいきなりアフリカで事業展開しても、自分の価値が出しづらいと思い、まずは知見とネットワークを蓄えるために、日本企業向けのアフリカ市場に関するコンサルティングを3年間行いました。運転資金を稼ぎながら、アフリカ54カ国を深掘りする期間でもありました。その過程で見えてきたのが、次に注力することになる物流、つまりインフラの領域です。

現地産業の創出に挑んだ7年

murofushi_Africa08--先ほど「産業を創る必要がある」とおっしゃっていましたが、日本車をアフリカへ輸入・販売すること自体は“創る”行為ではないとお考えですか。

室伏氏:はい。車を「作る側」が価値の源泉を握っていると考えています。Appleも同じで、世界中から部品を集めて組み立て、ブランドで品質を保証することで、圧倒的な付加価値を生んでいます。日本で作られた中古車がアフリカに届いても、現地で価値を生んでいるわけではありません。車であれば、「現地で車を組み立てる」ことが価値創出の意味では重要です。ただ、最初に立ち上げた「ワールドリード」は、日本の中古車事業にアプローチする方針でした。私が本当にやりたかったのは、現地で新たな産業を生み出すことだったので、方向性に違いがありました。目指したのは、デジタル技術を活用して、アセットレスで、初期投資も少なく始められるビジネスを通じての産業創出です。現地には多くの若者が働けずにくすぶっている。彼らのエネルギーをどう活用するかが鍵でした。行き着いたのが、彼らをドライバーとして活用し、真面目に働けば信用が積み上がる仕組みを作ることです。そこでECD(Easy Collect & Drop)という物流システムを立ち上げ、南アフリカ・ヨハネスブルグで小さくスタートしました。私も2018年末頃から家族と共に現地に住み、自ら運営を担いました。

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室伏氏:その後、同国内のケープタウンやダーバンに展開範囲を広げていきましたが、自社運営は非常に大変でした。配送1件の売上1000円のうち800円をドライバーに支払い、残りの200円の手数料のために多くの労力がかかる。広い国土や未整備のインフラの中で、無理な要望にも対応せねばならず、負荷が大きかった。当時は生成AIもなく、カスタマーサポートの自動化も難しかった。この重いオペレーションではスケールしないと判断し、2023年1月に「システム提供型」へと切り替えました。現地の物流企業にトレーニングを行い、システムとブランドを提供するフランチャイズモデルです。その結果、南アフリカを起点に、ナミビア、ボツワナ、ザンビア、ウガンダ、タンザニア、ケニア、西アフリカのナイジェリアとガーナ、さらにフィリピンまで広がりました。

murofushi_ECD03室伏氏:さらに、物流会社向けのSaaS「Logi-IQ」も提供開始しました。ルート最適化やドライバー管理、荷物・タスク管理などを一元化し、現地企業の業務効率を支援するシステムです。ただ、フランチャイズ展開には限界もありました。フランチャイジー(現地物流企業)にマーケティング費用も負担してもらうモデルだったので、彼らに成長スピードが依存してしまうものでした。結果、1カ国あたりの成長は非常に遅かった。思う様な成長が実現出来ず、フランチャイジーのリテンション(継続率)も低下してしまいました。結果、拠点数は増えたものの、各国のトラクションが十分に得られず、資金調達も困難に。融資の選択肢もありましたが、最終的には資金ショートし、2024年末に事業をクローズする決断をしました。アンドアフリカでの7年半の挑戦が終わりを迎えました。

なぜ挑戦は終わったのか――アフリカ市場の現実と学び

murofushi_8室伏氏:率直に申し上げると、まず「想像以上に市場の成長に時間がかかる」という現実が重かったですね。「マーケットがほとんど存在しない」は覚悟していましたが、成長スピードは思ったより遅かったです。アフリカには確かにエネルギーがありますし、小さな取引の積み重ねでビジネスを成立させることもできます。ただ、それも限られた範囲にとどまります。Pay Yourself First(先行投資)し続けなければならず、エクイティを燃やし続けても大きな見返りを期待しにくい構造があります。もう一つ大きかったのは、アフリカが想像以上に欧州の影響下にあるという点です。日本人が丸腰で飛び込んでも、強い引力を持つネットワークやインナーサークルにアクセスできなければ、事業の推進は難しいと痛感しました。加えて、人材の採用や評価・管理も非常に困難でした。アフリカでは、通常であれば1週間で終わるような仕事が、数ヶ月かかる様なことも珍しくありません。このスピード感の欠如がコストに直結し、経営を圧迫します。こうした「市場の未成熟さと思ったより遅い成長スピード」「国際的な力学」「人的マネジメントの難しさ」という3つの要因が複雑に絡み合った結果、事業継続は困難な状況に至りました。今あらためて考えると、アフリカで起業で挑戦するなら、領域を絞り込み、定期的な営業キャッシュフローを初期から見込める事業モデルで挑むべきです。ただ、大概それらは競合過多か札束勝負になっているので、見つけるのは容易ではありません。7年半の間、多くの挑戦をさせてもらいました。9割以上はペインでしたが、後悔は全くしていません。

挑戦が導いた新たな答え

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室伏氏:アンドアフリカでの7年半を振り返って誇りに思えることが三つあります。一つは、自社のシステムを10カ国に展開できたこと。もう一つは、アフリカやインドにいるメンバーと、リモートで連携しながら成果を出せたことです。ザンビアのCTO、モロッコのCMO兼COO、エジプトのエンジニア、そして日本のアドミニスタッフと少人数ながら強みを生かし合う、多様性豊かでありかつ非常に機能的なチームがつくれました。三つ目は、日本人以外の優秀な人材とともに働けたこと、そしてその一端を自分の家族にも見せられたことです。世界には80億人いて、日本だけを見ていたら出会えないような、別次元の能力を持った人材がいます。たとえば、ある分野で日本では9点か10点かで争っている中で、ブラジルやインドには飛び抜けて20点取っちゃう人がいたりするんです。こうした人材にアクセスできる素地ができたのは大きな財産です。この経験を踏まえて、次はUSを初めとする世界市場に挑戦したいと考えています。多様な人材とカルチャーの違いを理解し、活かしながらマネジメントする力には自信を持っています。また、大学・大学院で専攻していた応用生物学のバックグラウンドこれを活かして、ディープテック領域で世界市場に挑戦していきたいと考えています。現在は、東京科学大学とともに2社のバイオテックを立ち上げているところです。いずれも食品・医療分野に関わる技術がコアとなっており、人類が永遠に必要とする領域です。将来性のあるコア技術に絞り、最初からグローバル展開を見据えたビジネスを構想しています。5〜10年単位の挑戦になりますが、それだけの時間を投資する価値があると信じられるテーマに絞って挑戦させて頂いております。

グローバルキャリアに挑むCxO志望者へのメッセージ

室伏氏:グローバル市場で成功するための近道はないと思っています。ただ、「やりたい」という想いのエネルギーって、本当にすごいんです。内燃機関の様なもので、無尽蔵にエネルギーが生み出され、成果として現れてきます。だからその気持ちは大事にして、やりたいならやってみるべきだと思います。海外で何かを始めるのは、日本に比べて確かに大変です。でも、「千里の道も一歩から」で、まずは一歩踏み出すことが大切です。積み上げるしかないんですが、人生ではときどき“跳躍”できる瞬間があって、そこで大きく進むことがある。だからそのチャンスを掴めるように、普段はマラソンのように走りつつ、時には全力疾走する。その繰り返しが、結果につながっていくと思います。私も挑戦者なので、一緒に頑張りましょう!
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